マーケティングの役割を実践的に理解するため、ウェブサイト上のシミュレーションゲーム「ショッパーモーグル」に取り組みました。このゲームは、4社が清涼飲料水市場で時価総額を競うものであり、あまり外部情報がなかったので、ゲームで勝つ5つのポイントとゲームの仕組みを紹介します。
勝つためのポイント5選
後述の分析の結果、勝つポイントは以下の5つに集約できます。 なおわたしのグループは4社の中で一番になりました。
- チュートリアルビデオを見る
- 商品別で担当するより、役割別で責任を明確化する
- ホワイトマーケットを開拓する(特に高品質、高単価)
- 商品売上数が減っていなければ、単価および利益を増やす
- 新しいカテゴリーが追加されたら、すぐに参入する
ゲームの概要(基本編)
上記ポイントの重要性を理解するために、まずゲームの基本的なルールと目的を説明します。 ゲームは、適宜バージョンアップしているので、勝つポイントにも示したとおり、専用のビデオを視聴することをお勧めします。適宜エクセルかパワポにスクショを保存して、レポートにまとめれるようにしましょう。
目的
倍速で進むバーチャルな世界を舞台に、4つの清涼飲料水会社が販売競争を繰り広げ、時価総額を増やすことを目的にしています。ゲーム開始時に4社は既に既存事業を割り当てられれています。カテゴリーは3つの炭酸飲料(コカ・コーラ相当、ペプシ相当)、コーヒー(1社)、水(1社)から構成しています。単価および既存のマーケットシェアが高いコカコーラが有利な印象ですが、公平となるよう係数を与えているらしく、ゲーム開始時の4社の時価総額は同程度です。4P(product, Price, Place, Promotion)を意識した意思決定が重要です。パイを奪い合う熾烈な戦いと思っていましたが、適正なパラメータを設定し続ければ、4社とも時価総額を伸ばすことができた世界もありました。
5人の役割
- CEO: 会社がどのカテゴリーに進出するかしないか決定できます。 CEOが設定していないカテゴリーにはマーケティングディレクターがブランドを投入できません。 残る4人の中で能力が追い付いていない人が少なからずいるので、その人をフォローします。
- ファイナンスディレクター: 自社の財務状況(利益やキャッシュフローなど)を競合と比較し、他ディレクターに過剰な項目がないか知らせます。
- マーケティングディレクター: 新製品/ブランドの開発や既存の製品の品質やスタイルを変更します(product)。 メディアへの配分を設定します(promotion)。
- プライシングディレクター: 製品のパッケージ(何個入り)と単価を設定します(price)。
- セールスディレクター: 店舗の棚数オークションの入札額と各店舗へ納入する商品を決定します。

商品の売り方
- 前提として既存事業は安定しているので、ひとまず維持するという前提で、新規カテゴリーに進出する例です。
- まずはInsights にてフルレポートを購入して、ターゲット顧客層を決める。
- CEOがカテゴリーストラテジーを”Grow”に変更する。
- マーケティングディレクターが、”Launch brand”する。品質が高いと、R&Dコストも高くなります。カテゴリーが増えると、オーバーヘッドも増えます。おそらく水は小さいが、Fizzyのオーバーヘッドは大きい。
- 数週間程度でブランドが完成したら、プライシングディレクターがパックを設定します。売り値はいつでも無償で変更できるが、パック数は変更の旅に時間とR&Dコストがかかるので慎重に設定します。
- 数週間程度でパックが完成したら、セールスディレクターが適切な店舗の棚に割り当てます。

例えば、KB-1という製品は、先月 766個売れました。製品価格が$24なので、$24 x 766 が売上、$9.5 x 766が材料などの費用、(24-9.5) x 766 がGross incomeとなります。
インサイトレポート
- グループの意思決定に根拠を加えるというためにも、フルレポートは必須です。
- 下図は consumersegmentationの例ですが、survivorは Low quality & Low style であるのにたいして、hipster(こだわりがある若者?、右下), aficionado(愛好者、左上), sophisticate(高いものが良い)を示しています。そのターゲットに合うように、製品のquality, styleを設定しています。
- 後述しますが、ホワイトスペースでもターゲット顧客層を明確化し、mediaへの費用投下とパック数、店舗を設定すれば、下図は変化します。また適切に設定していたとしても時間とともに、顧客の好みが変わり、急に売れなくなることがありました。


役割別の詳細分析と応用戦略
ゲームを進めていくと、売れると思っていた商品がなぜか売れなかったり、売れていたのに急に売れなくなることがあります。各役割を深掘りしながら、そのあたりを解説します。
外部環境の変化
売れていたのに急に売れなくなる理由は大きく3つあります。 ①競合が自分と同じカテゴリーに進出して、プロモーションなどを大々的に行い、パイが奪われている場合、 ②競合が棚オークションへの金額を増やし自社の商品が棚から締め出されている場合、 ③顧客の嗜好が変化している場合。 ③が一番厄介です。調子に乗っていたら売れなくなり、いつの間にか損益計上もあり得ます。私の場合、炭酸で高品質なコカコーラから低価格なペプシへの移行、牛乳で開拓したSophisticateが客離れして、低価格帯に移行などです。対策として、複数のカテゴリーや同じカテゴリー内でも廉価版を準備して、瞬時に棚を切り替えることです。 炭酸が不人気になり、逆に水がなぜか売れ始めることもありました。
ちなみにコロナによる全体大打撃はありませんでした。
CEO
下図は各社の時価総額の例です。 月始めに更新され、他のprofit図などと合わせて、全員に状況を周知します。またinsights レポートや他社の新製品をウォッチします。 自社は水色で、12か月目までは最下位でした。。。そのタイミングで牛乳カテゴリーが追加され、いち早く高価格帯の牛乳を投入しました。 24ヵ月目くらいから牛乳が不振になった際に、すぐにコーヒーにメディアや棚を集中させました。

ファイナンスディレクター
- 財務をチェックします。水色の自社は王者として、棚を占有する戦略を取っていたので、Retailer Total Trade が他社より多いです。一方で、メディアはターゲット層に集中していたので少ないです。
- Gross incomeを増やしたいのであれば、Cost of Goodsは商品の質とスタイルで固定されているので、Salesを増やすことが手っ取り早いです。一番効果的なのが単価を上げてみることです。思ったより売り上げは減らず、Salesを改善できます。

マーケティングディレクター
- promotionの配分を変更します。 KBのターゲット顧客層は、sophisticate で彼らは、PR が効果的とレポートから分かるので、PRに集中しています。
- PAは hipsterがターゲットなので、POP以外を減らしています。
- メディアの出費をスクショして、awarenessがどれだか変わるか記録すると、最適な配分が分かってきます。

プライシングディレクター
- 各商品の材料費などから構成するCOGSは固定なので、 RSP商品単価を調整して、売上を増やします。単価を上げると、売れる商品数が下がることがありますが、たいてい売上は増えているので、数量ではなく、売上を見て最適化できます。
- こちらもスクショを取りながらエクセルに打ち込んでいくと、トレンドが分かります。

セールスディレクター
- 月末に翌月の各社の棚数を決めるオークションがあるので、その入札額を決めます。
- 割り当てられた棚にどの商品を置くか決めます。Amazzonは全体の棚数が多いのですが、Dance clubはそもそも棚数が少ないです。 そして、Asdaはまとめ買いが中心なので1個入りの商品を置いても買ってくれません。一方でDance clubに8個入りの商品を置くことも然りです。


顧客行動の分析: Purchase funnel の活用
- 我々も売れていないと嘆いていましたが、顧客行動をこまかく分けて考えると、なぜ売れていないか、4Pに基づきどこを向上すれば売れるようになるか分かるようになりました。
- 下図は Purchase funnel (水を購入するhipster)の例です。Poseidon という商品はawareness は38%程度にも関わらず、 main brandまで維持できています。一方、The Still はawareness 86%からwould consider で52%に落ち込んでいます。
- Aware of Brand を向上させたい場合: hipsterがよく見る媒体への費用を増やす。= promotion
- Would consider を向上させたい場合: hipsterが好む quality / style へ商品を合わす。= product
- Tried recently を向上させたい: 価格、pack size とhipster が訪れる店舗を合わせる = price, place
- Main Brand を向上させたい: 以前購入した客は、商品が棚にあれば再度購入してくれますが、棚にないと競合に逃げてしまいます。 これが低いと棚に商品がないということが分かります。

キャッシュが足りない
- 既存事業の売り上げが安定していないのに、他のカテゴリーに進出すると、商品開発のR&Dやオーバーヘッドコストが増え、利益を圧迫します。キャッシュまで減ってきている場合、カテゴリーや商品を減らすと、オーバーヘッドコストが減り経営が安定します。身の丈にあっている経営をしましょう。
お薦めの戦略
- コカコーラ: 炭酸事業が安定しているので、水とコーヒーの両方に進出する。
- ペプシ: 炭酸のラインアップを増やしつつ、コカ・コーラが進出していない水かコーヒーに進出する。
- コスタコーヒー: コーヒーをベースするがリスク分散のために、他社が進出していない手薄な分野に挑戦する。
- ポセイドン水: 水だけでは稼げないので、コーヒーに進出する。
- 挑戦しても他社の状況次第では、不採算の事業になることがあります。 その場合、早めにカテゴリーやブランドの活動を停止しましょう。オーバーヘッドが改善します。再開時にも費用は発生しません。
会社のイメージ
担当した会社は水が事業の中心でして、Gemini 2.5Proにイメージを作ってもらいました。
ゲームなので、製作者はどの会社にも逆転できるチャンスをくれています。製作者の意図を読み取り、行動に移してみると良いでしょう。 人気が陰ってきた製品からはいち早く資本を抑え、人気の商品の単価を上げ、売り上げを最大化すると勝てます。 チームビルディング研修にも持ってこいの題材だと思います。

まとめ
このシミュレーションゲーム「ショッパーモーグル」は、現実のビジネスの縮図として奥深いゲームでした。机の上で学ぶ「4P分析」がいかに大切で、そしてそれを実行するのがいかに難しいかを、身をもって体験することができました。
技術系の出身なのでビジネスは「商品の質とスタイル」が全てだと思っていましたが、それは大きな間違いでした。どんなに良い商品でも、顧客が求める製品(Product)に合わせて、メディア(Promotion)で訴え、適切な価格(Price)でなければ、そして適切な場所(Place)で売られていなければ、決して買ってもらえません。
特に印象に残っているのは、上手くいっていた事業が市場の変化で急に売れなくなった時の経験です。これは、「ビジネスに”絶対”はなく、常に市場を見つめ、変化に対応し続けなければならない」 という厳しい現実を教えてくれました。
最終的に、このゲームで勝つために最も重要だったのは、勘や経験だけに頼るのではなく、インサイトレポートという「データ」に基づいてチームで議論し、戦略を立て、迅速に実行に移すことでした。
この経験を通じて、マーケティングとは「商品を売る技術」であると同時に、「市場と対話し、顧客と共に価値を創造していく活動」なのだと理解することができました。



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